「おい、麻生大丈夫か?」最近よく言われる言葉だ。
俺は三流商社に勤めているが、実はそれなりに出世株であると自覚している。
社会の歯車の中の三軍の中のエースとでも言えばいいのか、美砂にそんな事をいうと、もっと胸を張って自信を持っていいんだよと言われる。
そんな小さな自信が少しずつ失われているのを最近感じる。
中川課長にキレた日以来、調子が悪い。
おれ自身はあまりその事件のことについて、変な話だがあまり覚えていないし、現実感があまり無い。
そのせいかわからないが、何だか夜も寝付けないし、気持ちも落ち込みがちだ。
だから、仕事もミスが出てきている。
給料はあまり変わらないが、おれは昨年末から新事業のプロジェクトリーダーとして新規顧客の開拓を行っている。
具体的には企画書を作ってアポイントを取って、相手先にプレゼンを行って仕事をもらう訳だ。
基本的にこの仕事は、商品知識や会社のPRが出来れば仕事が取れるというものではない。
第一に、相手からマイナスをつけられない事。ビジネスを組む相手を見るにはやはり減点方式となる。
だから、相手にマイナスをつけられないように清潔な身だしなみと、相手に合わせた会話が出来ることが必要だ。
そして、「あ、うん」の呼吸で、タイミングよくOKのサインをもらうこと。
これさえ出来れば、大概の商談はうまくいく。
だが最近はスタートからつまづくことが増えてきた。
名刺を忘れたり、企画書の数字が間違っているといった初歩的なミスが多いと思う。
正直、俺がリーダーでなければ、叱責を喰らう位のミスの連発をしていると思う。
そんな俺に部下(8人くらいしかいないが)も心配をしているようだ。
その部下の中の末吉先輩から「おい、麻生大丈夫か?」と言われるようになった。
彼は、プロジェクトリーダーになった俺の下で働くようになったのだが、一度も妬んだり皮肉を言ったりする様な事はない人だ。
そして、彼は俺のことをいつも心配してくれている、お人よしというか、仕事での出世は諦めているというか、ある意味仕事が出来ないというか・・・
俺は多分、仕事の面では彼を見下しているのだと思う。
だけど、人間としての優しさや受け入れる心の広さは彼のほうが上だと思う。
これは正直なところだ。そんな自分を醜いとも思うし、そんな小さな優越感を持っていたり、小さなコンプレックスを持ち合いながら人間は生きるのが普通だと思う。
だけど、末吉先輩から「ちょっと、最近はあまり眠れていないようだし、一度病院にいってみたらどうだ?」と言われた。
絶対に彼はそんな気持ちは無いということはわかっているのに「俺をプロジェクトリーダーから外そうとしている」という、妄想じみた恐怖を感じると共に、小さな怒りを感じた。
わかっている。ちょっと疲れておかしいのは俺なんだ。
仕事から帰ってきて、美砂といつものように電話。
美砂に不安になって「俺って最近調子悪い?」と聞くと
「うーん。疲れているだけだと思うけど・・・。あ、男性も更年期ってあるみたいよ」と返事が。
「おいおい、更年期って50代以上の女性がなるんじゃないの!?
俺はおばさんか!」
「ごめんごめん。だけど疲れていると自律神経にくるみたいだから気をつけてね」
「自律神経にくるってなんだよ?きたらどうなるんだよ?」
ちょっと天然な美砂に意地悪な返しをして、久々に笑った。
だけど、自律神経が弱まっているって怖いな。
何かわからないことがあったら、全知全能の神であるグーグル神に検索する癖がある俺はすぐさま検索した。
「男 更年期 30代」で検索すると取り扱っているサイトが結構あった。
まとめると、男の更年期は性ホルモンが低下して以下の症状になるらしい。
・夜の元気が出ない(EDなど)
・昔ほどのガツガツした気持ちが起こりにくい(男気がなくなった)
・体毛が薄くなった
・集中力が続かない、やる気が起きない
・顔がほてる、のぼせる、多汗気味
・めまいや吐き気がある
・手足がしびれる
・眠れない、常に眠気がともなう
・自分自身を追い詰めてしまう(うつ症状)
ほとんど合っている・・・。
さすがに手先がしびれるといったり、体毛が薄くなったというものは無いが、そのほかは当てはまる・・・。
俺、更年期男性の仲間入りかよ!
病院にいかないといけないかな・・・。
カテゴリ:若年性アルツハイマー患者の日記 [コメント:0]
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